スチャラカもくれんタマスダれ
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星を集める聖夜

「もー幾つ寝ーると、おー正ー月、とくらぁな」
 落ち葉は人に踏まれ、或いは土に融けて姿を消した。
木枯らしは吹きすさぶ寒風と化し、多くの生き物たちは眠りに就いた。
「もうっ、気が早いよ殷雷。今日は何の日だか知ってる?」
 正月まであと一週間。借金取りが回収に奔走する季節とはいえ、
新年にはちと気が早かった。後ろで一つに束ねられた黒い長髪の男――殷雷は
隣を歩く道服姿の少女―和穂の問いに首を傾げた。
「はて? 今年はもう南瓜も食ったしユズ湯にも入ったよなあ。
そんなことより、宝貝が近くにあるようだぞ」
 殷雷は耳に付けていた耳飾りから手を離して、それを和穂に手渡した。
和穂もそれを付けて目を閉じて――この方が集中し易いのだ――宝貝の在処を示す
光の点を追って行く。右へ30度。左へと60度。集中して縮尺を小さく。
気を幾らか抜いて縮尺を上げる。確かに、ここから徒歩で一刻ほどの距離に
反応が示されていた。
「こっちの方向だと、この林の中だね」
「そうだな。近頃は日が暮れるのも早くなってきたからさっさと行くぞ!」
 そう声をかけると殷雷は和穂を見ようともせず林へと立ち入ってしまった。
「もう、殷雷……まだ今日が何の日か答えてくれてないのに」
 仕方なく、彼女もまた殷雷の後を追っていった。



 作られた世界は、作られた後を微塵も見せず、その事は余計にここが作られた
世界であることを良く指し示していた。
「それじゃ、行ってきます!」
 小柄な少年――綜現は大きく声を出して元気良く家から出ていこうとした。しかし、
「……駄目よ。綜現。今日はずっと私と一緒にいるって約束したじゃない」
 スラリとした肢体の女性が彼を抱き締め、行かせまいとした。
「で、でも、塁摩とは今日も遊ぼうって約束したから……」
 少年は困惑した眼差しで年上の女性を見つめた。しかし、その女性――流麗は
一歩も退く構えを見せなかった。
「……だってほら、ここに証書もあるのよ。出てきなさい、帰書文!」
 掛け声と共に流麗が右手に持っていた紙が姿を変え、
少年の姿を取った。目元に少し皮肉っぽい造作が見え隠れしていた。
彼は速やかに自分の使命を果たそうとした。
「綜現、君は流麗さんと聖夜を共に過ごすことをここに誓っている。
よもや契約を違えることはないよね?」
「あ、あの紙って君だったんだ!」
 帰書文の登場に驚く綜現。
「君だったんだ、とは心外だね」
「……さあ、約束は守って貰うわよ綜現!」
 帰書文と流麗が綜現に詰め寄る。もはや蛇に睨まれた蛙には
手だては無いようにさえ思えた。しかし、
「ええと、聖夜ってことは夜なんだよね。まだ昼だから塁摩と遊んでもいいでしょ?」
 きっかりと帰書文と流麗は3秒間動きを止めた。硬直から抜け出たのは帰書文の方が
些か先だった。
「その通りだね。このボクが認めるよ。さあ、思いっきり遊んでくるといいよ」
 その言葉に安心して出ていこうとする綜現を、止めようとする流麗。
そして彼女を押しとどめる帰書文。流麗が見た目には似合わぬ力に押される間に、
綜現は塁摩への待ち合わせの場所へと行ってしまった。
「……契約の内容を間違えたわ」
 今更悔やんでも後の祭りだった。



 雪の降りつもった大地で、二人の女性が小休止を取っていた。
「はあ……今日は異国の聖誕祭の前日かあ。ねえ夜主さん知ってる?
今日結ばれた夫婦は末永く幸せに暮らせるのよ。はあ、今横にいるのが
張良さんだったらなあ……」
 質問と言うか愚痴というか、どちらにしろ夜主と呼ばれた女は
さほど感興を抱いてないようだった。
「どこにそんな根拠があるんだ。夢見るのもいい加減にしな。
現実はもっと厳しいんだよ」
 現実感溢れる夜主の言葉に、夢を見る少女――梨乱は
嘲るような一瞥を返した。
「まあ、夜主さんは独身だもんね。現実は厳しいねえ、本当に」
 うんうん、と一人頷く。対して夜主は苦虫を噛み殺した様な顔に変わった。
「く……言い返せないのが悔しいな」
「ふっふーん♪」
 ああこの野郎、頭を握りつぶしてやろうか、とも夜主は考えたが、
「それにしても、寒いなあ。まったく、足は暖かいからいいものを。
まあ、一応は宝貝の面目躍如って所だな」
 辺りは一面の銀世界。もし、夜主の指に填められている捜索系の宝貝――捜魂環が
無かったとするならば、今の小休止は救助を待つ為の居座りになっていた――
と言うほどの雪ではないが、比較的温暖な南方に生まれた梨乱には
この寒さは堪えられないものがあった。
「あー、寒い寒い寒い……」
 手がかじかんでしまっている為、薪を出したものの、
火を起こすことも満足に出来ない。見かねた夜主が代わりに薪に火を点けた。
「へへ、御免ね夜主さん」
「ところでお二人とも、こうして休んでいてもいいのですか?
こうしている間にも和穂たちとの距離は開いていますよ」
 この声の主は先程も出てきた捜魂環。人型は取れないものの、
人の意志を話し、人との意志の疎通を完全に行える。
「うー、そうかもしれないけど、寒いのよね……」
「そうそう、寒いからな。こんな日は家の中で酒でも飲んで、
管を巻くのが一番なんだがな」
 頭の中では判っているものの、どうも二人は乗り気になれなかった。
「しかし、早く出発しませんと、これから気温は下がる一方ですよ?」
「判ったわ、もう少ししたら出発するから。あー暖かい……」
「んぐ、んぐ、んぐ。はあ〜っ、北方の濁り酒もなかなか行けるな」
 捜魂環の忠告も、二人には届いていないようであった。



 憂鬱そうに溜息を吐く男が一人。かなりの長身で、背中には勇壮な雄牛の
刺繍が――ただし、気迫というものが全く影形も見えないその表情とは
全くもって似合っていないのだが。
「ふう。聖誕祭前夜か……あんな事もあったよなあ……」
 そう言って溜息を吐く彼から少し離れた所では、気の強そうな女が
奇声を上げ続けていた。
「何故!? どうして!? 何故この愛に生き、愛に死する女の私に、
聖夜を共に過ごす男性がいないのよお!」
 その声は仮初めの世界――断縁獄一杯に響くかの様に大きく、
しかしその悲痛な叫びに応える者は一人もいなかった。



 それは何十年も、あるいは百年単位の昔のこと……

 静嵐は緊張していた。いや、恐怖していた。
突然、自らの生みの親たる龍華仙人から一人きりで来るよう言われたのだから。
今まで自らが侵してきた数々の過ちが頭の中を駆けめぐる。
そして、龍華が姿を見せた。意外なことに彼に笑みを見せていた。
「あのー、今日私をお呼び下さったのには如何なる理由があるのでしょうか?」
 龍華は安心しろ、というかの様に大きく頷く。
「明日は、聖誕祭を開く地方もある。そして、そこではその前夜に
良い子に贈り物をする風習があるそうだ」
「はあ……」
 生返事を返す静嵐。それと自分が呼び出された事との関連はどうしても
見つけられなかった。だから質問した。それで?
「こいつをお前にやろう。今すぐ付けてみな」
 その時龍華から手渡されたのは、小さな黒光りする珠。
生みの親自らの下賜は嬉しかったが、自分が子供扱いされたのは不満だった。
更には、その真意が見えないのが不安を醸し出していた。

 取り敢えず言われた通りに珠を適当に帯にくくりつける。
九遙山から出ると、心配した顔が一つと、明らかに愉しんでいる顔が二つあった。
「よお、どうだった? どんなきついことを言われたのか教えてくれぬか?」
 こういった意地悪な事を言うのはいつも殷雷だ。
「まあそれにしても、よく無事に帰って来られたわねえ」
 それに深霜が同調するのもいつものことさ。
「それにしても、無事で本当に良かった。あれ、その珠は?」
 心配してくれるのは恵潤だけ。でも、それだけで僕の心は満たされる。
「さあ、何か良く解らないんだけど、龍華から頂いた品なんだ……」
 龍華の、と聞いてみんなは明らかにギョッとした顔を見せた。
僕はみんなにも良く見せてあげようと思って前に進んだのだが、
何もない所でいきなり転んでしまった。一応言っておくけど、僕だって仮にも
武器の宝貝だ。殷雷たちから欠陥欠陥呼ばれているとしても、
そこまで落ちぶれちゃいない。でも、僕はそこで転んだんだ。
で、何かに捕まろうと必死に手を伸ばした。僕は地面に激突する前に、
何かふにょっと柔らかい物を掴んで難を逃れた。
「き……キャアアアアッ!!!」
 恵潤の叫び声が聞こえた。何かいるんだろうか、と顔を上げた僕は気付いた。
僕が握っていたのは……
「何すんのよ、静嵐!」
「てめえ静嵐! 死んで詫びいれろぃ!」
「この破廉恥、女の敵、死ねぃ!」
 三者の息のあった連係攻撃に、僕は呆気なく地面に沈んだ……。

 その後も僕はとことん不幸な目に遇い続けた。ただ道を歩いているだけでも、
小は鳥が糞を僕の真上に落として来たとか、大は仙鳥が何故か僕を襲ってきたとか。
そしてもはや動く気力も尽き果てて地面に倒れ込んだ。
「ふう……やっぱり無駄だったか。無理矢理にでも鍛えればどうにかなると
思ったんだけどな。こいつを外せば今までの様な事は無くなる、安心しろ」
 僕に声をかけてきたのは龍華だった。どうやら、今までの不幸は全て
龍華がくれた黒い珠にあったらしい。封印されて後、僕はその宝貝は
名前を凶鎖丸といい、持ち主に不幸を呼び寄せる事によって持ち主を鍛える
宝貝だと知った。



 林の中を歩く殷雷と和穂。殷雷はなるべく歩きやすい道を選び、
自分の足で踏み固める事で和穂の身を案じていた。
「さっきから全然動いていないね。どうしてかな?」
「さあな。だが最悪、向こうがこちらに気付いているからかもしれん。気は抜くなよ」
 やがて視界が開けた。その訳は、地面に無数残された切り株から明らかだった。
「ほう、ここは森林の伐採地区みたいだな」
「伐採地区?」
「木を切ってばかりだといずれ無くなるだろ。だから、伐採していい地域を
年ごとに指定して、こういった空き地には後で植林しておくんだ。
 それより、宝貝の反応はどうなってる?」
「ええと、こっちに……あ、あの人だよ」
 そこには、黙々と木を切り倒している人間がいた。
「矢張りそうか」
「その宝貝を知っているの、殷雷?」
 もしかして、あの人の持っている斧が宝貝なんだろうか。
「いや、知らん。だが、あんなに簡単に巨木を切り倒されてたまるか」
 1,2,3,4,5。それだけ数える合間に、一本の木が切り倒されていた。
私はノコギリで木材を切ってみたことがあるけど、巧く刃を当てないと
駄目だったことを覚えていた。確かに、あの速さは異様だった。
「おい、おっさんよ」
 その言葉に、28,9程の――だから殷雷のおっさんと言う呼びかけは
間違っている――青年がこちらをちょっとだけ向いてきた。
「おっさんは止してくれ。まだそんなに年食っちゃいないんでね」
「それは済まなかったな。だが、こんな速さで伐採するのは違法じゃねえか?」
 こんな速度で木々を伐採していったら、ここが一面の切り株畑になるのも
時間の問題かもしれない。
「その斧が宝貝なんですね。お願いです、それを私たちに返して下さい!」
 私の言葉に、その人は感心した顔を見せていた。
「へえ、これが宝貝だって知っているのかい。
でも、これは俺の仕事に必要だから渡せないな」
 その返事を聞いて殷雷が棍を構えた。
「そうか。なら、力ずくでも頂くぜ」
「へえ、この切れ味を見てもそんな口を叩けるのかい?」
 そう言うと、その人は無造作に、力を込めている様子なしで
斧を木肌に向け、そして押した。まるで刃物で水を切った時みたいに、
木がどんどんと削れていく。そして、倒れた。
「……なかなかの切れ味だな。だが、幾ら切れ味が良くとも
当たらなきゃ意味無いぜ」
 そんな光景を見ても、殷雷は少しも動じてなかった。
「殷雷! 気を付けて!」
「馬鹿野郎、誰に言ってるつもりなんだ?」
 いつもの減らず口と共に、殷雷は樵さん
――木々を伐採しているからには多分そうだと思う――に向かって突進した。

 殷雷には勝算が十分にあった。斧よりも、刀の方が当然間合いは広い。
遠くから相手を気絶させればこちらの勝ち。
斧の間合いに踏み込まれてしまえば、厚みのある向こうの方が有利。
 だが、そんなへまをするつもりは微塵もない。一撃で勝負を決める。
そう決めた殷雷の間合いに、相手は予想を遙かに超えた踏み込みを見せた。
「なあっ!」
 すんでの所で思い一撃を躱す。しめた、大振りしてやがる。
冷や冷やさせて貰ったが、これで終わり――ふと感じた嫌な予感に、体を横にずらす。
ちょうどそれまでいた場所に斧が振り下ろされた。慌てて間合いを大きく離す。
「お前……俺を殺すつもりだっただろ」
「とんでもない。当たったら弛めるつもりでいたさ」
 やっかいなことに、戦闘能力を持っている上、使用者の筋力等を倍加する
機能も持っているようであった。しかもかなり狡猾だ。
態と大振りをして相手の油断を誘ってみる位には。
「この『伐棟斧』の錆になりたくなければ、今すぐ立ち去るんだな」
「へっ、そういった台詞は剣か刀を持っている時に言うもんだぜ」
 そして、両者は睨み合った。



「ただいまー」
 流麗が怖かったので、綜現は早めに――つまりは夕方に帰ってきた。
「おかえりなさいっ!」
 玄関の扉を開けるやいなや、流麗が飛びついてきた。
「うぐ……苦しいよ、流麗さん」
 言われて初めて気付いたのだろう、驚いた顔をして流麗は綜現から身を離した。
「早く帰ってきてくれて嬉しいわ。もうちゃんとケーキも七面鳥も用意してあるわよ」
「わーい! ケーキケーキ!」
 綜現の後ろにいた塁摩を見て、流麗は毎度ながらあからさまに嫌な顔をした。
「……塁摩、あなたは呼んでないわよ」
「えーっ、自分たちだけケーキ食べようだなんて、ずるいじゃない」
 もし塁摩が暴れ出せば、流麗ではとても止められない。
「帰書文、塁摩をつまみ出して!」
 しかし、契約の為なら無敵となれる帰書文なら話は別だ。
「ち、ちょっと待ってよ。二人だけでパーティーなんて寂しいよ。
相談せずに塁摩を連れてきたのは悪かったけど、
多分言っても許してくれなかっただろうから……」
 だんだんとしりつぼみになる綜現の言葉。
「……駄目。さあ、二人で聖夜を過ごすのよ」
 手を組み合わせて祈る様な姿勢の流麗。
「ねえ帰書文、契約内容ってどんなもの?」
 その質問に、帰書文は一言一句違わず正確に答えた。
「成る程。じゃあ、別に”二人で”とは言っていないから、私がいても良いよね」
「……その通りだね」
「わぁい、ケーキケーキ♪」
 はしゃぐ塁摩のその横では、流麗が肩を落として、たそがれていた。



 刀よりも斧の斬撃の方が素早いという屈辱。その中に殷雷は嵌り込んでいた。
鈍重な斧なんぞ、と高をくくっていたのは認めるが、この速さは尋常ではない。
殷雷は己の創造主たる龍華仙人を強く恨んだ。
 しかし、そこは刀の本領発揮、今までは攻撃を避け続けて来ていた。
「へえ、結構やるねえ」
 そんな男の軽口に答えてやる義理は無い。
 更に不利だったのは、こんな切り株畑のど真ん中で戦いを繰り広げている事だ。
お陰で動きが取りづらくて仕方ない。
 険阻な地形と、素早く鋭く重い斬撃。殷雷の体勢はほんの少しずつ、
しかし確かに崩れていった。そして、崩壊の一点がついにやってきた。
足下の切り株に足を取られてしまい、大きな隙が生じてしまった。
そこを狙って相手は攻撃を仕掛けてきた。ここに至って殷雷は棍を捨てる決心をした。
相手の攻撃の軌道に棍をぶつけ、そこで生じるはずの相手の一瞬の隙に勝負を決する。
 殷雷はこれまでの棍の働きに感謝を込め、力強く相手の斧と打ち交わす。
斧の動きの止まった瞬間に強く相手の懐に飛び込んだその時、
破壊音が空き地に響き渡った。『さらば……棍よ!』
殷雷の拳の威力が樵の体を突き抜ける。ゆっくりと、樵は前向きに崩れ落ちた。
「ふう……手間取らせやがって」
 戦いが終わり、殷雷は嘆息する。勝利への安堵もそうだが、
棍を失った悲しみの方が大きかった。悲しげな目をして、
棍の残骸が残っているであろう方向を向く。
そこには、無残な姿を晒した伐棟斧の姿があった。棍は無事だった。
「おおっ、うおおっ!」
 殷雷は歓喜の声を上げて棍に駆け寄った。そして、愛おしげに点検する。
そこに、遠くに避難させていた和穂が近寄ってきた。
「どう、殷雷?」
「ああ、傷一つ無い。それは良かったけど、何でだろな?」
「まあいいじゃない。それより、早くこの人を起こしてあげて。
こんな所で気絶していたら、寒いでしょ」
「へいへい、人使いの荒いこって」
 和穂がむっ、とした顔をする。それを横目で見てイヒヒと笑いながら、
殷雷は樵に活を入れた。



 宝貝を回収して、二人が林の外へと出た頃には
空から雪がちらほらと舞い始めていた。
「うわぁ……初雪だね……」
「ほう、そういやそうかもな」
「どうして殷雷ってそう情緒が足りないの?」
「そりゃあ、武器の宝貝だからな」
「むぅ……ねえ殷雷、今日は何の日だか知ってる?」
 さっきもその質問は聞いたよな、と思いながら、
「知らん。何かあったっけ?」
「あのね、今日は異国の聖誕祭の日だよ」
 何か期待するような眼差しで、和穂は殷雷を見上げている。
「はあ、それで、だからどうしたんだよ」
「梨乱に聞いたんだけどね、……まあいいや」
 きっと、今の殷雷に聞いて貰っても、ね。和穂はそう思っていた。
「待て、途中で止められると気になるぞ」
「……それにしても寒いね……」
 その言葉を証明しようとしたのか、和穂は殷雷にピッタリと寄り添った。
「な、な、何だ!?」
 慌てて赤くなってどもる殷雷。そんな彼を見て和穂は微笑んで言った。
「寒いから、ね」
「そ、そうか……寒いからか。それじゃあ、しょうがねえな」
 後半は、自らを納得させるかのような、そんな口調で。
「ねえ殷雷、こうしていると暖かいね」
「……そうだな……」
 そうして、二人はいつまでも雪の野に佇んでいた。


『伐棟斧』 斧の宝貝。鋭い切れ味を誇るが、
     ”焚き付けの符”と同じく純粋に植物にしか作用しない。
      つまりは戦闘用ではないのだが、戦闘機能が付いているのは
     龍華の性であろう。
      ただ、その厚い刃を持つその姿とは裏腹に、耐久力が低い。
     普通の金属とぶつけても刃こぼれを起こしてしまう。
      武器としては使わない方が無難。

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