スチャラカもくれんタマスダれ
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めりぃくりすます名雪 12/25

 ぎいっ、ぎいっ。深い眠りに落ち込んでいたはずの俺の脳は、
床の軋む音、たいして大きくもない音で目を覚ました。
『なんだ……?』
昨日は一日どたばたしていたので、俺はぐっすりと眠りたいのに。
やがてその足跡は、俺の部屋の前で止まった。
そして、部屋のドアから一つの人影が滑り込んできた。
「あはは……」
本人は声を潜めているつもりかもしてないが、丸聞こえだった。
『まったく、真琴の奴、久しぶりに顔を見せたと思ったら……』
真琴は俺のベッドのすぐ横に何かを置いてすぐさま俺の部屋から立ち去った。
『さて、今回は何かな……』
取り敢えず、煙が上がったりはしていないので安心だ。
ベッドから起きあがって、置かれた何かを慎重に避けながら灯りをつけた。
光にだんだんと慣れていった俺が見たモノは……黄色い、バナナの皮。
『あいつは……相変わらずガキっぽいな』
俺はバナナの皮を適当に掴んで(真琴だから、小細工があるとも思えない)、
部屋を出た俺は真琴の布団のすぐ横に置き直してやった。さて、寝るか……。



 ジリジリジリジリッ……。毎度おなじみ、隣の名雪の部屋から
目覚まし時計の大合唱が聞こえてきた。その騒音に混じって、
「わあああっ!」
ずるっ、ズッドッッ!
「ほえ? あれ、ボク何でこんな所に寝てるんだろう……ヒュィ?」
ずるっ、ドゲラゲゴッ!!
 どうやら、あゆにとばっちりがかかってしまったようだった。
まあ、運が悪かったと思って諦めてもらおう。



 階段を下って居間に入ると、秋子さんが笑顔で待っていた。
「おはようございます」
「ええ。良い朝ですね」
顔に手を当てて微笑む秋子さん。いつも通りの、平和な光景だった。

 食卓から何の気も無しに台所を覗いてみると、昨日と同じように
薄力粉や卵、その他もろもろのケーキの材料が山積みに……一昨日以上だった。
「秋子さん、あの材料どうしたんですか?」
 俺の素朴の質問に秋子さんは困った顔をして、これは珍しい、
こちらを労るような視線を向けてきた。何となくだけど照れるな……。
「祐一さん、少し休んだらどうですか? 今日はクリスマス・イヴですよ?」
 へ…………? 待てよ、一昨日が名雪の誕生日で23日って事は、
確かに今日は……そこで漸く、俺は部屋に飾り付けられてあったクリスマスツリーに
気がついた。すでにおおまかな飾り――ベルや電飾や靴下など――
が取り付けられていた。疲れているんだな、俺。
「うえ……すっかり忘れてたぁ……」
 とはいえ、ツリーを見るのも久しぶりだ。俺は近づいてしげしげと観察する。
「あれ? このツリー、本物のもみの木で作られているんですか?」
「ええ……お友達が毎年送ってくれるのよ」
 さすがは秋子さんの友達、ただ者ではないらしい。

 その内、二階から名雪、ついでに真琴とあゆが降りてきた。
今日も学校はあるので、名雪も辛いことだろう。
「うーーーっ、酷い目に遭ったぁっ」
「どうして部屋の中にバナナの皮なんてあったんだろ」
「どうした、真琴。また誰かに酷い目に遭わされたのか?」
 俺は真琴をからかってやる。思い道理に、真琴は目をつり上がらせて怒ってきた。
「覚えてなさいよっ、この仕返しは何時かちゃんとしてやるんだからぁっ!」
 はいはい、何時になるかは知らないけどな。
「名雪ー、起きてるかぁ?」
「……くー……ふみゅ、起きてまーふみゅ……」
 やっぱり寝ぼけているようだった。

 朝食をものの一分で平らげて、玄関で名雪を待つ。
「祐一さん……これ、今日のパーティの招待券なんですけど、
クラスのみんなに配ってあげて下さいね」
「昨日あれだけ盛大にやっておいて、今日もまたですか?」
 俺は疑問を投げかける。
「ええ、昨日は内輪でやろうと思って……。
でも、やっぱりパーティは人が多いほど楽しいですから」
 あれで内輪だと言うのなら、人類皆兄弟ってのも頷ける。
俺は苦笑しながら答えを返した。
「判りました。あんまり人数増えないと思いますけど、頑張ってみます」
 そこでようやく名雪が朝食を終えて出てきた。
「あれ? それって何?」
「今日のクリスマスパーティーの招待券だ。それより、時間はいいのか?」
「うん。走れば間に合うよ」
 必要以上に大きく頷いて名雪は言ってきた。
「……名雪、本当にもう少し早く起きられないのか?」
「うー、努力はしてるよ……
それに、冬は寒いからつい布団に籠もりたくなるんだよ」
 その一般論は名雪には当てはまらないだろうがな……。



 校門から少し入ったところで香里を見つけた。
「おーい、香里ぃ」
 香里はこちらを振り向いた隙に、俺は招待券をその額に張り付けた。
「うわっ、何すんのよ。ええと、なになに? 判ったわよ、行くわ」
 思っていたより怒ってこなかったので良かった。
でもそれよりも、香里の横に歩いているちっこいのは?
「……ちっこくありません」
 その小柄な少女には何となく見覚えがあった。
「ええと……栞か? 制服だから判らなかった」
 俺の言い訳に彼女は頬を膨らませて、
「……そんなこと言う人、嫌いです」
「悪かったって。それより、来るか? ウチでやるクリスマスパーティに」
 栞は考え込んでから口を開いて、
「ケーキはアイスクリームケーキですか?」
「すまん、それは保証しきれない」
「……残念です」
「でも、秋子さんが作るからには間違いなく絶品だぞ」
 秋子さんって? という質問に、横の香里が答えた。
「判りました……行かせて頂きます」
「ほい、これで一人追加っと」
 キーンコーンカーンコーン。そこで無情にも予鈴が鳴り響いた。
「やべえっ、行くぞ名雪!」
「うんっ!」
 嬉しそうに走っていたのは名雪一人で、俺たち3人は
心中焦りに焦りながら自分たちの教室へと駆けていた。

 あれだけ急いでも、俺たちの脅威であるHRはとても短い。
その短いHRが終わった後、俺は北川に来る気があるか尋ねてみた。
「行く」
更に一人決定、と。



 この時期になると、授業というものは講義を受けるものではなくて、
テストを受けるものになってくる。唯一の救いは体育なのだが、
不運にも今日は体育の授業は無かった。
 連日のテスト責めに疲れ果て、それでも日頃の勉強の成果か今日は
巧くいった、と思いながら俺は机に寝そべっていた。
「祐一ーっ、お昼休みだよっ」
 ぐうぅ……名雪の言葉を聞いたからか、腹の虫が大声で鳴り出した。
「ようし、込まない内に学食に行くぞ!」
 そしていつものメンバーで俺たちは学生食堂に雪崩れ込んだ。

「ほら、Aランチだ」
 名雪はいつでもAランチだ。香里じゃないが、俺もAランチのメニューは
全部記憶している自信がある……。
 ちなみに、今日の俺の昼飯はカレーライスだ。
香里はとんこつラーメンで、北川は麻婆豆腐定食。そして……
「なあ栞、本当にバニラアイスだけでいいのか? 絶対お腹空くぞ?」
「良いんです。大好きですから」
 いや、そういう問題じゃなくて……。
「そうよ、栞。バランス良く栄養を摂らないと、大きくなれないわよ。
例えば小さなその背丈とか平らな胸とか」
「う〜、お姉ちゃん、嫌い……」
 姉妹の心温まる(?)会話を楽しんでいると、入り口から
二人組の、私服の女性が入ってきた。しかもそれは俺の知った顔で……。

「あー、お久しぶりです、祐一さん。覚えてますか? 佐祐理ですよーっ」
「……久しぶり」
 舞と佐祐理さんだった。
「あ、お久しぶりです。でも、二人とも学校はどうしたんですか?」
「……学校」
 舞が指を下に向けて口を開いた。
「確かにここは学校だが、舞の通っている学校じゃないだろ」
「あははーっ、ちょっとサボって来ちゃいましたぁ。
あのですね、舞が今日来たら御馳走が出るって言ってたんですよ」
 ……お前の嗅覚は犬並か、舞。
「ちょうど良いところに。今日ウチでクリスマスパーティを執り行うんですけど、
佐祐理さんたちもどうですか?」
 佐祐理さんはちょっと驚いた顔をした。
「えー。でも、いいんですか? 佐祐理たちが参加しても」
「秋子さんなら三秒で了承するわね……」
「と、いうわけでオッケーです」
「あははーっ、それじゃ、今夜、舞と伺いますねーっ。
でも、お家は何処にあるんですか?」
 あ、そう言えば水瀬家の場所を知っているはずもないか。
俺は大雑把に地図を書いて佐祐理さんに渡した。
その後、二人は周りの奇異の視線(そりゃそうだ、私服なんだし)を
ものともせず、二人で仲良く牛丼を食べていた。
お嬢様然とした佐祐理さんが牛丼を食べている光景は
想像通り違和感がひしひしと感じられたが、本人は気にしてないようだった。

「それにしても……相沢君の知り合いってみんな女性ばっかりね」
 学食から教室に戻る途中に香里が酷いことを呟いた。
「お? そういえばそうだな、このぅ、一人くらい俺に紹介しろ!」
「それは誤解だぞ。男友達だって、北川とか、北川とか……」
 おかしい、どうして北川の名前しか思い浮かばないのか。
「……はあ。それはともかく、浮気なんかして名雪を泣かせないでよね」
「馬鹿を言うな、俺が名雪を邪険にするはずないだろ!」
 真剣になって香里に詰め寄る俺に対して、香里はあろうことか”ふっ”と笑うと、
「……予想通りの反応ね。恥ずかしくないのかしら」
 ああああっ! 俺をからかって遊んでいたんだなっ!



 午後の授業もこれまたテストで嫌気がさしてくるが、
もう慣れた気さえするのは恐ろしい。
ともかく、一日の授業を終えた俺たちは、水瀬家での再会を約束して別れたのだった。

 名雪も部活が終わってしまったので、この頃は一緒に帰っている。
ついこの前は一緒に帰るのは難しかったから、とても嬉しい。
隣を歩いている名雪には内緒だがな。
「ただいまー」
 珍しく秋子さんが玄関に出てこないが、パーティの準備で忙しいのだろう。
そう踏んだ俺は、すぐさま二階に上がって荷物を放り投げると居間へととって返した。
そこには、立派なクリスマスツリーが相変わらず鎮座していて、
あゆと真琴の二人が嬉しそうに飾り付けを更に豪華にしようと、
試行錯誤していたのだが――
「おい、あゆ、ツリーにたい焼きをぶら下げる奴があるかっ!
っておい、真琴もかっ! さっさとこの肉まんを取り下げろっ!」
「うぐぅ……これなんか自信作だったのに……」
「なによーうっ、自分のセンスの無さを棚に上げて避難しないでようっ!」
 こ、こいつらは……。肩を怒らせて爆発寸前の俺に秋子さんが歩み寄ってきて、
「いいじゃないですか。きっと世界で唯一のクリスマスツリーですよ」
 平和だなあ、秋子さんの思い描く世界ってば。



 俺の指図で部屋の内装があらかた片づいた頃には、
ぼちぼちと人が集まり始めていた。
人手が足りないのでそいつらにも内装を手伝わせて、
ようやく完成した頃にはみんなが集まっていた。

「んじゃ、この不肖北川、パーティの司会を務めさせて頂きます。
はい、みなさま、コップを手にとって、かんぱーい!」
 勢いに押されて、誰もがコップを隣の人のそれとかち合わせる。
「……ねえ、何か違わない?」
 俺も今、それを感じていた所だった。
やがてじろっ、と北川を除く全員(といっても秋子さんと名雪は嬉しそうに
何度もコップで演奏していたが……)が北川を睨み付けた。
「ええと、気を取り直して……メリークリスマス!」
 みんなで、メリークリスマス!と復唱する。そしてパーティが始まった。



「美味しいです……」
 アイスクリームケーキを食べながら、栞が幸せそうに呟いた。
「あむあむ、みゅー。あむあむ、みゅー」
 真琴とあゆは前後不覚にチョコレートケーキを貪り食い、
「いちごケーキ……美味しい……」
 名雪はオーソドックスなモンブランを心ゆくまで食べていた。
 今日も秋子さんの料理の腕前は健在だった。
今日のケーキも五段組だが、全て食べられるのだ。
しかも、段ごとにケーキの種類が違う……。
「あれ、この鳥肉、鶏じゃないですよね?」
 俺は取り敢えず肉を頂いていたのだが、何か、鶏肉とは味わいが違っていた。
調理法の違いで生じる違いではなくて、
例えば豚肉と鴨肉の違いのように、味の深みが全く違う。
「ええ、七面鳥です。どうです、美味しいでしょう?」
 へえ……七面鳥を食べるなんて生まれて初めてだな。
「ふえ、七面鳥って結構珍しいんですよね」
 んー、佐祐理さんなら毎年食べていそうだがな。
「…………」
 そして、舞は黙って食べ物を口に詰め込んでいた。
それを見守っていると、やおら胸を軽く叩き始める。
「……やっぱり詰まったか。ほれ、ウーロン茶」
 ごくごくごく……。そして、また無言で食事を続ける。



 お食事会も下火になると、香里がバッグをごそごそと探り始めた。はて?
「あ、あったあった。はい名雪、クリスマスプレゼント」
「え、わたしはいいよ。二日前に貰ったばっかりだよ?」
「いいからいいから♪」
 香里が名雪にプレゼントを渡していた。
やっぱりとても仲がいいんだよな、あの二人は……。
と、ちゃんと俺だってプレゼントを用意しているぞ。
「ほれ、名雪、俺もだ」
「わあ、ありがとう、祐一っ」
「この違いには嫉妬すら抱くわね……」
 まあまあ、と栞が姉を取りなしていた。
「ね、今開けてもいい?」
 俺は大きく頷いた。ふっふっふ。
「わあ、何かな……??? 動いてるよ、祐一……」
「けろぴー二号だ。一号に比べて精巧だからな……」
「ふーん……」
 やがて、衆前監視の下、箱が開かれ、それが姿を現した。
濃い緑色をしたそれは一声鳴いた。ゲコ。
「いやあああっ!」
 おおっし! 名雪を驚かせる事に成功したぞ! やっぱり本物は苦手なんだな!
と喜んでいる俺だが、その目の前にケーキの真上に着地しようとしている
けろぴー二号の姿がっ、やばいっ!
 咄嗟に手を伸ばすことさえ考えられなかった俺の目に、今度は
高々と空を舞う舞の姿が映っていた。
舞は空中で空箱を拾い、その中にけろぴー二号を収納すると、
すばやく蓋を閉め、まあここまでの事を空中でやってのけたのだが、
格好良く着地を決めた。うん、10点をやってもいいな。

「うー、非道いよ、祐一……」
 気付いたときには、俺が周囲に睨まれる番だった。
「あ、あはは……。許せ、名雪」
 誠心誠意謝ったつもりなのだが、やはり名雪は許してくれなかった。
 そして、俺はこの寒空の下、衆議の結果、屋外に放り出されたのだった。
おいおい、洒落にならないぞ……。
 北川に連行される俺は秋子さんに助けを求めたのだが、
「大丈夫ですよ」
 秋子さんの言葉が、これほど無責任に感じられた事は無かった。



 屋外で毛布にくるまって凍えること一時間、パーティが終わったのか、
客人達が次々と帰っていった。それぞれが、帰り際に俺に言葉を投げかけてくる。
「……祐一が悪い」
 舞の言葉に、俺はグーの音も出ない。
「大丈夫ですか、祐一さん……?」
 俺は何とか気力を振り絞って笑顔を見せた。
「じゃ、じゃあね祐一君」
 あゆはそれでもすまなそうにして帰っていった。
「まあ、明日は学校休みだから頑張ってね」
「……あんなことする人、嫌いです」
 美坂姉妹も俺に助けの手を差し伸べてはくれず、
「馬鹿だよなあ、ホント、お前ってよう……」
「うぷぷっ、あー、すっきりしたぁっ!」
 北川と真琴は他にも色々と寒さの為動きの取れない俺を散々からかい回し、
 そして、さらに北川が最後に帰途に就いてから30分して、名雪が家から出てきた。
ぷいっ、と横を向いて、こちらに話させまいとしていた。
まあ、腕を引かれて(随分乱暴に、だったが……)屋内にいれてくれたのだが。
結局その日は一日中、名雪は口を利いてくれなかった。



 翌日。やはり昨日外にずっといたせいか、
頭は重いしガンガンするし更には熱っぽかった。
しかし、俺は7時きっかりの目覚まし時計で目を覚ました。
 一階に降りると、俺の顔色を見て秋子さんが心配そうな顔をした。
「別に大丈夫ですよ」
「いけません。ちゃんと寝てないと……」
「お願いですから、朝食をお願いします」
 秋子さんは何も言わず、台所へと姿を消した。
今日は休日だから、名雪も真琴も(また居着いたみたいだった)
起きてくる事は無いだろう。
 俺は一人きりで食事を済ました後、防寒装備を完璧に調え、
今すぐ倒れそうな体にむち打って寒空の下へと足を踏み出した。



 日が丁度、南中にさしかかった頃、俺は雪を丸めて雪玉を作り、
作った矢先から名雪の部屋目掛けて投げ続けた。
5分間ほど投げ続けていたが、不意に窓ががらっ、と開かれた。
「はい〜、ウチではもう新聞は取ってまふぁ〜」
寝ぼけている名雪の顔に、雪玉が直撃した。
「冷たいよ……あれ、祐一?」
 名雪はぶんぶんと手を振っていたが、昨日の出来事を思い出したのか、
急に背中を向けてきた。
「頼むから、こっちに来てくれよ、名雪」
「…………」
 無言で拒否する名雪に、何度も俺は声をかける。
「わかったよ……」
 その言葉と共に、窓が閉められ、20秒ほどして玄関のドアが開いた。
パジャマのままで、降りてきていた。こりゃあ、長々と話を聞くつもり無いな……
だが、別に話さなくても伝わるだろう。俺は強引に名雪の腕を引っ張って裏庭へ、
かまくらの中へと連れ込んだ。

「うわぁ……これ、祐一が作ったの?」
「俺一人じゃ無理だって。ほら、そこに」
 かまくらの中には、疲れ果てて寝入っている真琴の姿がある。
「昨日はごめんな。これが本当のクリスマスプレゼントって事にしといてくれ」
「うん……昨日はわたしもひどかったよ」
「本当にな」
 あはは……と、俺たちは笑った。そこで、俺の記憶はぷつっと途絶えて……。



 次に気付いた時は、自分の部屋でベッドに寝ていて、
(いつのまにかパジャマ着てるし)名雪がベッドにもたれ掛かる様に寝ていた。
その膝には、濡れタオルが……俺の額にも。
『そうか……ずっと看病してくれたのか……』
「ん……。あ、祐一、気付いたの?」
「あ、ああ……」
 何となく言葉を言いづらい。
「祐一……風邪引いてたんだったら休んでいればいいのに……」
「どうだ? あのかまくら気に入ってくれたか? 正月にはあの中で餅を焼こうな」
「すごく嬉しいよ……。でも、ちゃんと毎日直した方がいいよ」
「そうか……大変だな、そいつは名雪に任せるよ」
「うんっ、任せてよ」
 それっきり、沈黙が部屋を支配する。
「もう、こんな事しないでね……」
「やだ」
「まるで駄々っ子だよ……」
 名雪の瞳からは、次々と涙がこぼれ落ちていた。
「名雪の為だったら、俺は何でもするからな」
「馬鹿だよ、祐一……」
 俺は右手を名雪の頭に乗せて、名雪が笑ったのを確認してから目を閉じた。
「メリークリスマス、名雪……」
そして、俺はちょっと早く、夢の中で楽しい正月を体験していた。
そう、きっと訪れるはずの。

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