スチャラカもくれんタマスダれ
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まじかる☆ひよりん3

注:
 このSSはSSどころかまんま『ねこねこファンディスク』のパクりですので、
『ねこねこファンディスク』未クリアの人は目を通さないことを強くお勧めします。

「じゃあね、健二」
「おう、またな」

 校門から出たところで健二と別れた清香は交差点を曲がってすぐに溜息をついた。
「ふう……どうやら気付いてなかったようね」
 しかしそれも明日には絶対にばれてしまうことであると思うと、清香の心中は重くなる
ばかりだ。そう、明日は全校生徒が参加する一大イベント(特に女子)、身体測定の日だ。
かといって、清香は体重がどうのBHWがどうのという話に興味があまりない。清香にと
っての関心事は唯一、身長だけだった。身長が平均に比べて僅かばかり(と主張するのは
清香くらいのものだ)低い清香にとっては明日は13日の金曜日を凌ぐ悪日となること間
違いなし。
「はあ……どうにかならないものかしら」
 いっそのこと休んでしまおうか? 即座に否決。いずれ測定を受けなければならないこ
とに変わりはないし、しかも健二に
「おや清香先生、風邪はもうお治りになったんですかね?」
「まあ一日で治ってよかったもんだ。でも身体検査の日を逃したのは残念だったな」
 などと嫌味ったらしく言われるに決まっているからだ。前門の虎、後門の狼とはまさに
このことか。
「はあ……」
 また溜息一つ。顔を地面に向けて歩く姿は日頃の清香とあまりにも対照的だった。しょ
んぼりとした歩きを続けているうちに、いつしか家までにある最後の交差点を曲がってい
たことに気付く。
「はあ……」
 家に帰る。飯を取る。まあその他色々。そして寝てしまえば、明日は身体検査だ。清香
の気分はどんどん落ち込んでゆくばかりだ。
『……お困りですか?』
 そんな時、正体不明の声がゴミ箱の後ろから聞こえてきた。
「だ、誰!?」
『そんな時には、わたしにお任せ♪」
 すっくと立ち上がって、ポーズとともに高らかに歌い上げる。神々の使徒、愛の伝道師。
ああ気高き勇者のその名を聴け! 
『はぁい、まじかる☆ひよりんだよぉ♪』
 どこからか歓声が聞こえてくる。いや、これは幻聴だと切り捨て、清香はまじまじと目
の前に立つ人物を見つめた。
『お困りのようだね、清香ちゃん?』
 何か言っているようだが当然無視する。ピンクのヒラヒラのフワフワ。ピンク色の最悪
の配色だと言っても過言ではない。全体の感触としては清香も子供の頃に見ていた魔法少
女の衣装にそっくりだった。ただし、清香が見ていたのはここまで丈の短いスカートでは
なかったと断言できる。それだけなら我慢もできようが目の前のこれは魔法少女というに
は年を取りすぎていた。つんつるてんのぱっつんぱっつん。豊かな胸が窮屈な衣装に閉じ
こめられずに余計に誇張されて清香を挑発する。そしてとどめに、目の前の人物の顔に清
香は心当たりがあった。心当たりどころか、毎日見ている顔だ。どこにも締まりのない緩
みきったぽんこつ顔。
「……なにやってるのよ、日和」
 どこからどうみても、奇天烈な衣装を纏っていたのは清香の友人の日和だった。
「ひ、日和じゃないよぉ。まじかる☆ひよりんだよぉ」
 涙目になって反論する日和を見て清香は額を手で押さえた。急に鈍い頭痛が襲ってきた
ためだ。ぽんこつだとは思っていたがまさかここまでとは思いもよらなかった。こんなの
と友人だったとは、我ながら友達付き合いに関して初歩から考え直した方がよいらしい。
「わかった、わかったわ」
「ほ、ほんとに?」
「親友のよしみで病院まで連れ添ってあげるわよ。さ、行きましょ」
 ぐいっ、と腕を引っ張る。ところが清香の予想以上の腕力を発揮してひよりんはその場
を動かない。
「ち、違うよぉ。わたしの話をちゃんと聞いてよぉ」
「……仕方ないわね。それで、なに?」
「えーと、よく聞いてね清香ちゃん」
 何故か聞いてはいけないような気がした。そんな清香の思いを悟るはずもなく、ひより
んは言葉を続ける。
『わたしは、魔法の国からやってきた……まじかる☆ひよりんだよぉ〜♪』
 ほら、やっぱり聞いちゃいけなかった。清香は今度こそ有無を言わさぬ強さで日和を引
っ張ってゆく。
「ねえ、清香ちゃん。や、やめてよぉ〜。びょ、病院は嫌だよぉ〜」
 この世のありとあらゆる気力を消滅させる涙声に、病院まで引っ張ってゆく気力も失せ
る。掴んでいた腕を放すと、ひよりんはまた妙ちくりんなポーズを取る。
「あーあー、分かったわよ。あんたはひよりん。それでいいのね?」
「うんっ」
 楽しそうに嬉しそうに返事するひよりんに、清香はそこはかとない恐怖心を抱かずには
いられなかった。
『さあ、それで何に困っていたのかな?』
「……別に困ってないわよ」
『さあ、何に困っていたのかな?』
「だから別に」
「で、でも、さっき、溜息ついてたんだよ?」
「だ、か、ら、何でもないのよ!」
 身体検査が怖い、なんて恥ずかしいこと人に話せるか。
「う゛、う゛ぅ〜」
「ちょ、ちょっとひよりん?」
「う゛〜、う゛〜」
 今にもひよりんは泣き出しそうだ。日和の泣き顔をいつも見ているはずの清香。だが何
故かどこからともなく不安がわき上がってくる。直感に従い仕方なく清香は相談すること
に決めた。
「明日、身体測定でしょ? またチビって健二に馬鹿にされるのかと思うと気が滅入っち
ゃうのよ」
「なぁるほどぉ〜。難しいねぇ。でも、みんなまじかる☆ひよりんにお任せだよぉ♪」
「はあ……」
「じゃあ、魔法の力で清香ちゃんの背を伸ばすよぉ♪」

『ピンプル、パンプル、ロリポップン』
『マジカルマジカル、るんららぁ』
『そ〜れっ、にゃうーん♪』
 ちゃらちゃらりんっ。ロッドを清香に向けると効果音が再生された。そこそこの値段の
ものらしい。

「うーんっ、うーんしょっ。うーんっ、うーんしょっ」
「……で、ひよりん。どうして私の首を絞めているわけ?」
「ち、違うよぉ。清香ちゃんの背を伸ばしているんだよぉ」
「魔法の力はどこへ行ったのよ、どこへ!」
「はぅー……ぐっすん」
 首にかけられたひよりんの手を解いて、清香はまた溜息をついた。
「万が一にでも、とか思った私が馬鹿だったわよ』
「うぅ〜、わたし、バカじゃないもん」
「今度ばかりは庇ってあげられないわよ。何が魔法よ? この年になって魔法はないでし
ょ? 一度自分の年を考えなさいよ」
「ま、魔法は嘘じゃないもん」
「はいはい、ひよりんの好きなテレビアニメの中だけね」
「う゛〜う゛〜」
「あのねえ。一度現実と虚構の区別を……」
「わあ〜んっ。清香ちゃんのバカぁ〜っ」
「って、ちょっと日和、いた、痛いわよ。やめてよ、ねえ?」
「うぇーんっ」
 どかっ、どかっ。容赦のないひよりん☆ハンマーが清香の頭に次々と命中してゆく。



 清香ママはご機嫌だった。思わず鼻歌が出てしまうくらいにるんららぁ〜な気分だ。清
香の大好物の金目鯛が手に入ったからだ。うち解けられない母子の間でも、おいしい食事
があれば自然と笑顔で食卓が飾られる。清香の笑顔を想像しながら、素材が新鮮な内にと
清香ママは帰宅を急いでいた。
 ふにゅっ。清香邸が存在する通りに差し掛かったところで柔らかい物を踏んだ感触。や
だ、まさか犬猫の糞かしら。最近はここいらも野良犬が増えて困るわね。清香とそっくり
の溜息をつきながら嫌々ながら足下に目をやった。
「きゃあーーーっ、き、清香ちゃん!」

『こうして今日も、まじかる☆ひよりんは大活躍です♪ 魔法のハンマーで、整体治療か
らカニパックエステまで、どんな願いにもかなえちゃうよ、えへへ♪』

 翌日。怪我をおして身体検査を受けに行った清香は、保険医に「たんこぶが出来ている
から、君はまた今度ね」と言われて折角の帳簿操作の機会が訪れることはなかった。なお
、健二に「わはは、いくらチビチビ言われるのが嫌だからって、自分でたんこぶこさえる
ことはねーだろ? ほれほれ、清香くん何かゆーてみい」と散々物笑いの種にされたこと
は言うまでもない。

「な、な、なにがえへへ♪よ!覚えてなさいひよりん。今度会ったらただじゃおかない
からね!」

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